2025年のメッカ大巡礼は6/4から始まりました。6/7はイブラヒームの信仰の篤さをたたえる祭イード・アル・アドハで、マレーシアではハリラヤハジと呼ばれています。この日は牛や羊を屠畜・解体して貧しい人に施すため犠牲祭とも言います。最近は業者に依頼する場合もありますが、コミュニティで独自に行う伝統の残るカンポンバルに行ってきました。
ハリラヤハジはどんな祭かな?
ムスリム(イスラム教徒)が行う義務がいくつもありますが、その一つが聖地メッカ(より正確にはマッカ、現サウジアラビア)への巡礼。巡礼は2つあり、いつでも行ってよいウムラ(Umra、小巡礼と訳される)とイスラム暦12月の8日~12日限定のハジ(Haji、大巡礼)となります。

大巡礼の達成者は男性はハジ(Haji)、女性はハジャ(Hajjah)と呼ばれ特別な尊敬を受けるとか。
今はサウジアラビアへ飛行機で簡単に行けますが、実際にハジになるのはなかなか大変なのです。
理由①…短い期間に大勢の希望者がいるので各国への割り当てがあり、マレーシアへのそれは毎年3万人くらい。マレーシア人口3431万人の65%がムスリムで約2230万人。この中の3万人に入るのは大変。

理由②…費用はピンキリですが安くても100~150万円くらいはかかるみたい。一般庶民には高額です。お金持ちは何回も行く人がいる。
理由➂…イスラム暦は太陰暦で毎年2週間ぐらいずれてきます。近年はハジが酷暑期になり毎年1000人くらい熱中症などで亡くなっている。
信仰心、運、コネ、財力、体力がいります。これは尊敬に値しますね。

この大巡礼の時期の最後に行われるのがハリラヤハジであり、アラビア語ではイード・アル・アドハ(Eid Al Adha)と呼ばれます。
この時家畜を屠りその肉を貧しい人に施します。これは『旧約聖書』の中でイブラヒーム(アブラハム)が神への信仰を示すために我が子イスマーイール(イシュマエル)を犠牲にしようとした古事から来ています。ユダヤ教・キリスト教の聖典『旧約聖書』ですが、実はイスラム教もこれを聖典のひとつとして認めているのです。※( )内はユダヤ教・キリスト教での名称。
現在ガザ問題などでユダヤ教徒とイスラム教徒は対立していますが、本来は兄弟民族。昔のイスラム社会ではユダヤ教徒は「聖典の民」として優遇されていました
カンポンバルはどんなところ?
ハリラヤハジで犠牲に用いられる家畜はコルバン(Qurban,アラビア語で神への捧げもの)といいます。コルバンは寄付により購入され各コミュニティで屠畜・解体されてきましたがクアラルンプールのような大都市では難しく、業者が代行してくれます。
でもカンポンバルには昔ながらの伝統が残っていました。

カンポンバルは高層ビルが林立するKLCCの隣なのに一戸建て住宅が多く、緑にあふれた不思議な場所。マレー系住民の居住区として売買等が規制されており、昔のカンポン(農村)のような雰囲気があります。
住民のほとんどがムスリムであり、コルバンをコミュニティで行う習慣も残っています。トラタロウは毎年見学させてもらっています。

昨年のハリラヤハジの様子はこちら
2024 ハリラヤ・ハジ(犠牲祭)を見てみた に移動します


6/7 ハリラヤハジの朝に自転車でカンポンバルを回ると、あちらこちらに牛が繋がれています。カンポンバルは「新しい村」という意味ですが、現在は農業も牧畜も行われていません。普段は牛なんて見ないのでこれはコルバンですね。
カンポンバル・モスクには正装した住民が礼拝のために集まっていました。そしてコルバンとなる牛がトラックで運びこまれています。ただここの屠畜・解体は見学できそうな雰囲気では無いのでコミュニティに行ってみます。


今年は昨年とは別のコミュニティに行ってみました。東側にあるPUSAT SEBARAN MAKLUMAT NASIONAL (NADI) Kampong Bharu,KLというコミュニティ・センターです。
ちなみにこの辺りはペトロナス・ツインタワーから陸橋サロマ橋を渡って徒歩10分ほどで行けます。素朴な雰囲気の道路で顔をあげると高層ビル群が見えるというギャップがオススメ。
サロマ橋からの夜景もきれいです。
サロマ橋の夜景を見に行ってみた に移動します


1446Hはイスラム暦

コミュニティセンターには沢山の住民が集まっていました。そして牛が13頭もいた。コルバンは住民の寄付なので、信心深く裕福な人が多いのかな。
責任者(インチャージで通じた)に挨拶をして取材をさせてもらいます。責任者と言うより長老と言った風格の方でした。

屠畜と解体が始まります
※ 牛の屠畜と解体シーンが満載、苦手な方は閲覧注意です
男たちが集まって牛に縄をかけ、足を縛り排水口まで牽いて行きます。毎年のことなどで和気あいあいと作業をしています。


ムスリムが食べてはいけない飲食物(豚肉や酒)があることは知られていますが、飲食可な物がハラール(Halal)と呼ばれます。
牛はハラールなのですが、厳密に言うと「ビスミッラー、アッラーフ、アクバル」と唯一神の御名を唱えながら、ナイフで頸動脈を切断、血を流しきった家畜しかハラールになりません。ここではリーダーの祈りに皆が唱和しながら屠畜が進みます。

頸動脈を切るのはプロ級の人がやるみたい。屠畜するにしても苦しまないように配慮。
周りから見えないようにカバーをしていますが、かなりの勢いで血が流れるのが見えることもあります。日本で屠畜のシーンなどまず見ることは無いので衝撃的。
血を出尽くすためしばらく放置されますが、時々断末魔のケイレンをするのが哀れ。
でも地元民は女性・子供も普通の行為として見ていました。

女性陣は軽食や飲み物の準備をしています。みんなに拍手されながらケーキにナイフをいれる女性は誕生日なのかな? 仲が良いコミュニティです。


血抜きが終わったらテントの下に運んで解体作業。難しい部分はベテランかプロっぽい人が教えたり、やったりしています。


内臓の取り出しは難しそう。ここで胃や大腸の中身をぶちまけてしまうと大惨事。上手い人が慎重にやっていました。


血はすべて流してしまい食べません。これはイスラム教に影響を与えたユダヤ教も同じ。砂漠では血は腐りやすいからでしょう。
家畜の血も利用する欧州・中国・朝鮮半島などは比較的寒冷なのでやはり気候の違いかな。
内臓はどの国も利用します。イスラム教圏でも牛の腸を使ったソーセージはありますね。マレーシアではフライドレバーをよく見ます。



多くの住民が「 QURBAN CREW 」と書いたシャツを着用し、そでに JOHARI GHANI の文字。これはこの辺りを選挙地盤とする政治家ジョハリ・ガニ氏で、このコミュニティにも寄贈をしているのかな。
ハリラヤ・プアサ明けにカンポンバルでオープンハウスを主催されるので、トラタロウもおじゃましています。
2025 政治家のオープンハウスに行ってみた に移動します

解体作業が進みます。


大きな部位をばらしたら精肉を切り出します。





顔出し許可いただきました
用意された肉は貧しい人に分けるのが趣旨ですが、最近は貧しい人も少なくなり、自分たちで消費することも多いとか。まあ、信仰とコミュニティの絆が深くなる行事です。
英語のできる人や地元のお嬢さん達が話しかけてくれて楽しく見学ができました。
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