8月は25年ぶりにインドネシア(ジャワ島のみ)に行っていました。マレーシアとインドネシアはマレー系民族を祖先とし、言語も同じだと言われています。マレーシアはイギリス、インドネシアはオランダの植民地支配を受け、第二次世界大戦中は両国とも日本の占領下にあり戦後独立をします。兄弟国とも呼ばれる両国を比べてみました。
両国の基本データです

領域 マレーシアが33万㎢(日本の0.87倍) インドネシアは192万㎢(日本の5倍)
インドネシアはマレーシアの5.8倍の領土を持ちます。
人口 マレーシアは3346万人(2024)、インドネシアは2億8164万人(2024)
インドネシアの人口はマレーシアの8.4倍となります
平均年齢 両国とも30歳ぐらいの若い国(日本は49.9歳)
GDP マレーシアは1人あたり$12540、インドネシアは$4958(日本は$32498)
現在はマレーシアが経済的には優位、しかし将来は?
合計特殊出生率(女性が生涯に生む子供の数、2.1以上無いと人口は減少、日本は1.2)
マレーシアは1.78(少子化の傾向が見えてきました)
インドネシアは2.15で人口を維持できます。
※ 子供の数だけで経済が決まるわけではありませんが重要な要素です。将来のインドネシアはGDPにおいては日本を抜くと予想されています。2050年でインドネシア4位、日本8位の予想。
いろいろ比べてみました
比較① 民族構成
マレー系民族は中国南部雲南のあたりを起源とする人々で、4500年前から南下を始め、マレー半島~インドネシアの島々に移り住みました。
マレーシアには華人(中国系)、インド人も多いですが人口の65%を占めるのがマレー系です。マレー系民族流入以前から住む先住民族も多く、その数は100を越えるとか。華人とインド人は見れば分かりますが、マレー系と先住民族は日本人には区別がつきませんね。


インドネシアは人口も多いので先住民族も300以上と言われます。主要民族は経済の中心となるジャワ島に多く、総人口の40%を占めるジャワ人と15.5%を占めるスンダ人でどちらもマレー系民族の子孫。
このように両国とも民族が多いので「マレーシア人とインドネシア人の見かけの違い」なんて簡単に言えません。マレー系とジャワ人はトラタロウの主観では前者・丸顔でがっちり、後者・細面でやや細身というイメージです。
比較② イスラム教
マレーシアの宗教は仏教・道教(21%)、キリスト教(9%)、ヒンドゥー教(6%)もありますが、61%がイスラム教徒です。国旗にあしらわれる半月と星もイスラム教を表しています。
女性のイスラム教徒(ムスリマ)は外出時にはヒジャブ(マレーシアではトドゥンと呼ばれる)という頭巾をかぶるので一目瞭然。
マレー系の多くがイスラム教徒ですが、マレー系ぽくてトドゥンをつけていない女性は先住民族に多いキリスト教徒かな。

マレーシアのムスリマが外出時にトドゥンをつけていないなんて考えられません。街には制服・私服の宗教警察(Islamic Moral Police)がいてチェックしていますので。非ムスリムや外国人もイスラム教の倫理に反する事をすると指導の対象になる場合もあります。

人口の87%がムスリムであるインドネシアは世界最大のイスラム教国なのです。街を歩けば女性のほとんどがヒジャブ着用、と思っていたら非着用の女性もけっこういました。地域によってはキリスト教徒が多い場所もあるかもしれませんが、どの都市に行ってもヒジャブ率が意外に低い。
調べてみたらインドネシアではヒジャブは強制ではなく個人の裁量にゆだねられている様子。厳しいマレーシアから来るとビックリでした。

マレーシアではスーパーで隔離されて売られる酒類も普通に売られていますし、「公衆の面前でイチャイチャするな」というイスラム教的なタブー警告も見たことがありません。
なかなか寛容な国なのね、と思っていると都市によっては、バス内で男女は分かれて座るというマレーシアでも見られないルールがあったりしました。
※ バス座席男女別ルールはイランやパキスタンでもありました。パキスタンでは女性は絶対座らせるという習慣があって、ヨボヨボのおじいさん立たせても女性は座らせていました。


インドネシアで全然見なかったのがパレスチナ支援グッズ。クアラルンプールではパレスチナ支持・支援を訴えるグッズ販売が盛んで、米国大使館前ではデモもよく行われます。
イスラム教は仲間を助ける意識が非常に強い教えなので、なるほどなあと感心していました。でも世界最大のイスラム教国たるインドネシアでは見ません。マレーシアで盛んなのは別な理由もあるのかな。

比較③ マスジッド(モスク)
イスラム教の祈りの場がマスジッド(英語風に言うとモスク)です。イスラム教徒が多い両国には至る所にマスジッドがありますがスタイルが違いました。
インドネシアはアラビックな丸い屋根にミナレット(尖塔)という、いかにもイスラム教です、という感じのマスジッドがほとんどですね。
マレーシアもアラビックな感じのマスジッドは多いのですが、現代的なデザインのマスジッドもあるのが違いかな。



※ 教会や寺院は神様仏様をお祀りする特別な場所です。イスラム教のマスジッドは祈りの場ではありますが、「聖なる場所」ではありません。礼拝時間以外は地域住民が中で昼寝をしていたりします。
あまり知られていませんがイスラム教に僧侶はいません。ただマスジッドで礼拝を先導するイマームやイスラム法学者のウラマーが僧侶的な役割を果たします。
比較④ 犬と猫
ペットの世界にも宗教が関係する場合があります。イスラム教では「犬は不浄」という考え方があり、ムスリムは犬を飼うことはほぼありません。例外は警察犬・救助犬ぐらい?
ムスリムがかわいがるのが猫でクアラルンプールは多くの猫がいる猫天国。
ただマレーシア人の3割を占める華人・インド人は犬OKなので、彼らの居住区では犬も見かけます。

9割近い国民がムスリムであるインドネシアはどうかな、と思いましたら「超・猫天国」でした。ほとんどの場所に天敵たる犬がいないので路地は猫だらけ。住民もエサをやってかわいがります。猫を見ない日は無いくらい猫だらけ。
犬はどうかといいますと、26日間の滞在で4回だけ見ました。全部華人が住んでいそうな地域でした。

比較⑤ 言語
マレーシア語・インドネシア語はマレー系民族の言葉で、このあたりの貿易用語でした。では両者は同じかというと少し違うみたいです。
マレーシア語はジョホール方言をベースに英語からの借用語が多い。
インドネシア語はスマトラ島のリアウ方言をベースにオランダ語からの借用語が多い。
文法はほぼ同じですので単語は多少違っても意思の疎通は可能みたい。ある解説では大阪弁と博多弁みたいな物と言っていました。

マレーシア人が全員マレーシア語を使うかというと華人やインド人は広東語やタミル語などの母語を使い、共通語としては英語が一番使われ、マレーシア語はその次みたいです。
インドネシア人も普段はジャワ語やスンダ語などの母語を使い、インドネシア語は共通語という感じみたい。英語のような単語も目にしますが、多くはオランダ語由来。英語とオランダ語も親戚なので似ています。

※ この国を「オランダ」と呼ぶのは日本だけ。正確には「ホランド」(Holland)でオランダはその日本訛り。ホランドも実は通称で、スペインから独立した時のリーダーが北部のホランド州だったことに由来します。正式名は「ネーデルラント」(Nederland)で「低地」という意味。
比較⑥ トイレの名称
マレーシアに旅行される際、観光客が行くたいがいの場所で英語が通じるのでマレーシア語は知らなくても大丈夫。でも挨拶やありがとう(テレマカシ)と共にトイレ(タンダス)ぐらいは知っておいても良いでしょう。
インドネシアのバスターミナルで「ディマナ・タンダス」(トイレはどこですか)と聞いたら「へっ?」という顔をされて気づきます。インドネシアでは違うんだ。

「トイレット」と言い直して指さされた方向には「TOILET/MUSHOLA」という表示。そうかインドネシア語でトイレは「ムショラ」なんだな。別な日にトイレを探したとき「ムショラ」の表示にそって進むと絨毯をひいた小部屋に到着して??? 「ムショラ」は礼拝室でトイレは「カマル・クチル」(直訳すると小さい部屋)でした。両者は隣接している場合があります。


比較⑦ 料理
マレーシアはマレー系、華人系、インド系の三大民族がいるので料理の種類は豊富。でも各民族は他民族の料理は宗教の関係もあってあまり食べません。でも日本人は食物タブーが無いので選び放題のB級グルメ天国です。
何を食べたらよいか分からない時はナシ・チャンプルという自分でおかずを選べるセルフチョイスの店があるので、美味しそうな物を見て選びましょう。下記ブログを参照ください。
世界のB級グルメ/06 ナシ・チャンプル in マレーシア に移動します

インドネシアは華人は少ないし、インド人もほとんどいないのでマレーシアほどの料理のバリエーションはありません。ただインドネシア料理も美味しいので1ヶ月近く滞在していても飽きませんでした。
同じマレー系民族・イスラム教徒であるためマレー料理とかなり似ています。ナシ・チャンプルもあるので美味しい物の自己開拓できます。ただ両国ともかなり辛い物があるので要注意。

比較⑧ 中華料理
マレーシアの華人は人口の23%、首都クアラルンプールでは40%以上の大勢力です。華人居住区には中華料理フードコートがありますが、豚肉を使うためイスラム教徒が多いマレー系は近づきもしません。ヴェジタリアンが多いインド人も同様で華人だけの別世界となっています。
時々マレー系ぽい人やインド人がいたりしますが、豚肉タブーの無いキリスト教徒ですね。

華人が3%ほどしかいないインドネシアでは、大都市にあるチャイナタウンを除いて中華料理店は少ないです。そのかわり豆腐・春巻・焼売・麵類といった中華食品が豚肉・酒を使わないハラール加工されてインドネシア料理に取り込まれています。特に豆腐を揚げたタフゴレンは人気のスナック。


比較⑨ 飲料
インドのチャイ、ベトナムのカフェスアダーなど国によっては国民的飲料があります。マレーシアのそれはテタレと呼ばれるミルクティー。イギリス支配時代に高地に茶園が開発され、紅茶を飲む習慣ができました。
ミルク・砂糖を入れた紅茶を高く掲げたカップから下のカップに落として空気を含ませるのが特徴ですが、普通の店は低い所から2~3回落とすだけですね。これに氷を入れるとテアイスになります。

インドネシアの国民的飲料というと???ですが、手軽に飲まれているのがアイスコーヒー。屋台や道端に砂糖・粉末ミルク入りのインスタントコーヒー小袋が並びまして、好みの物を選ぶと少量のお湯で溶いて氷を入れてくれる安直な物。紅茶版はエステといいます。


実はインドネシアは世界のコーヒー豆の7.4%(2024)を作る世界3位の生産国。でも一般庶民には豆からコーヒーを入れる習慣はないようです。
ここの珍コーヒーがルアク・コーヒーという物。ルアクはジャコウネコという生き物でコーヒーの実を食べます。豆と呼ばれる種子は糞と一緒に排出されますが、これを集めた物。
ジヤコウネコの腸内の酵素・細菌の作用で独特の香りが生まれるとか。

比較⑩ ラーメン
欧米でラーメンが人気を博して久しいですが、マレーシアにも一風堂を始めとした日本のラーメン店が数多く進出しています。ただ疑問なのがイスラム教徒が多い国なのに主力商品は豚骨ラーメン。ムスリムは食べられません。
でも問題なし。豚骨ラーメン店のターゲットは豚肉OKの華人ですので。華人は三大民族の中で一番お金持ち and 都市部は経済を握る華人の人口が多いので彼等だけでも十分商売になるのです。

では華人が少なくムスリマが多いインドネシアにラーメン店は無いのか、というとマレーシア以上にありました。豚骨ラーメン店も少しありますが、主力は鶏系ラーメン。特にトリパイタンが人気です。
Toripaitan、Chashu、Karaage など名前も日本語のまま普及しています。


現地資本のラーメン店は麺が茹でおき、スープがぬるい、などインドネシア化している面もありますが、なかなかの美味しさで関心。
ちなみにインドネシアは中国に次ぐ世界2位のインスタントラーメン消費国。インドミー(Indomie)というインドネシアで知らぬ人がいないインスタントラーメン会社がありますが、「和風ラーメン」なる物を発売しています。

比較⑪ 屋台
マレーシア・インドネシアで共通するのが「屋台天国」。街のいたる所に屋台があり美味しい物が売られます。全然違うのが屋台の形態。マレーシアではテントが組み立てられ、折り畳みテーブルがセットされますが、インドネシアの屋台は車輪がついた移動式です。


比較⑫ 肥満率
マレーシアの問題のひとつが肥満率の高さ。成人の半分が過体重か肥満で糖尿病大国まっしぐら。料理の盛りがよくて油も多そう(美味しいのだけど)and 甘い飲料大好きの結果です。
インドネシアは細い人が多いので安心と思ったら、経済発展と共に肥満率は急激にUPしているとか。両国ともエクササイズにはげむ人が増えています。

比較⑬ 歩行者保護
歩行者の立場で見るとクアラルンプールの歩行者保護事情は最悪。車優先社会で横断歩道があっても車は止まったりしてくれません。マレーシアは良い国だけどこの点は最悪。
ところがインドネシアはもっとひどかった。ドライバーのマナーの問題ではなく、道路計画じたいが歩行者の事を考えていないのです。
道路の反対側に渡りたくても横断歩道で車が止まらないのは当たり前だが、そもそも信号や歩道橋が無いのです。まだマレーシアのほうがこれがあるだけましでした。

交通事故による年間の死亡者数を調べてみたら日本は2663人(2024)、インドネシアは27531人(2022)とケタがちがいました。マレーシアはというと6080人(2022)。やはりインドネシアは多いねと思ったが、インドネシアの人口はマレーシアの8.4倍。6080×8.4=51072、率でいえばマレーシアのほうがひどかった!
※ インドネシア都市部は信号が非常に少なく、車もバイクもゆっくり走ります。このため事故は起こっても死者は案外少ないのかな。
比較⑭ 首都交通事情
マレーシアが自慢して良いのが首都の交通事情。十数本の市内鉄道・モノレール網が展開され、たいがいの場所にこれで行けます。東南アジアでこれに匹敵するのはシンガポールぐらいかな。
ジャカルタは渋滞で悪名高き都市ですが、市内鉄道はようやく整備が進みはじめたばかり。
一つだけ良いなと思ったのが、専用バスレーンを走るバス路線があり、これは朝夕も渋滞知らずでした。



比較⑮ 首都の日本度合
クアラルンプールとジャカルタにおける日本企業、日系飲食店、日本食品販売などの状況とその他。トラタロウの主観です。現在クアラルンプールには約1万人、ジャカルタには1.5万人の日本人が住んでいます。
日本食品の販売
KLにはイオン、ドンキ、業務スーパーなどが複数あって日本食品入手はラクチン。ジャカルタにもイオンなどが増えつつあるようですが、KLにはおよびません。
KLの強みはローカルスーパーでも場所によっては日本食品が豊富なこと。これは華人がかなり日本食品を好んでいるため。イスラム教徒・ヒンドゥー教徒に比べ食のタブーが少ないのです。

日系飲食店
これも華人が4割を占めるKLのほうが多い感じ。ジャカルタはハラール(イスラム教徒飲食可の食品)にしないと売れませんから。
ただ麺好きインドネシア人を見込んで丸亀製麺が進出しています。KLにはサイゼリアが来るみたい。
ラーメンの項目で書いたように日本食の現地化はインドネシアのほうが進んでいます。

日本企業の進出
マレーシアには1633社(2023)、インドネシアには2103社(2022)の日本企業が進出。
近年は製造業だけでなくサービス業の進出も目立ちます。KL市内に「日本ではNO1です」という広告があったので、何かなと見てみたらアコムです。「ご利用は計画的に」とは書いてませんでした(笑)。

日本の呼び方
マレーシアではジュプン(Jepun)と呼ばれ、日本人だとオラン・ジュプンです。Orangが「人」を意味し、オランウータンは「森の人」なんです。
インドネシアも同じかと思ったらジュパン(Jepang)でした。『東方見聞録』に登場する「黄金の国ジパング」に近いかんじでイイネ。

親日度
ある調査でマレーシアの親日度は世界5位、インドネシアは8位となっていました。ちなみに1位は台湾です。どの国も日本に植民地支配されたり、大戦中占領されたりと反日要素がありますが、トータルで好意を持ってくれています。
インドネシアのバンドン郊外には世界の建物を再現した娯楽施設 The Great Asia Africa がありますが、日本コーナーが格段に広かった。


インドネシア各地で時々漫画『ワンピース』に登場する海賊旗を見ます。政府に抗議するシンボルになっているとか。
8/26にマレーシアに帰りまして「平和で良い国だったな」と思っていたら8/28に各地で反政府暴動が発生しました。
現在のところ政治的安定度ではマレーシアのほうが上のようです。
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