クアラルンプールは人口の4割以上が中国系(華人)なので中華料理店も沢山あります。ここ数年で目立って増えてきたのが、蘭州ラーメン(蘭州牛肉麵)の店。中国では人気があり全国展開するチェーン店もありますが、KLでも専門店が増えたので行ってみました。マレー語では Mee Tarik ( ミータレッ)と呼ばれ人気があります。
蘭州ってどこにあるの?
中国の白地図を見て蘭州はこのへんと指さすことができたなら、あなたはかなりの中国通。蘭州は甘粛省の省都であり、イメージとしてはシルクロードの入り口西安(旧・長安)から数歩進んだあたりで、もう数歩進むと敦煌に着く感じ。街中には黄河が流れているのが特徴です。


このあたりは乾燥地帯で昔から小麦が主食でした。小麦を美味しく食べる手段のひとつとして麺料理が発達します。そしてここの名物となったのが蘭州牛肉麵で、今では中国のどこにでも店があります。


以前は中国でしか見なかった蘭州牛肉麵ですが、4年前に移住したらクアラルンプールにも店があるのを発見。そして様々な蘭州牛肉麵店が増殖していくのを感じる今日この頃であります。
派手な看板のチェーン店が多いですが、KL繁華街のトップと言えるブキビンタンにあるモール・パビリオン地下には上品な店もできていました。





人気の秘密① 手延べ麺(拉麺)であること
現在の中国で「拉麺」(ラーミェン)という言葉には2つ意味があります。比較的新しい意味としては、日本のラーメンを音訳した言葉であること。
ラーメンは中国が起源ではありますが、日本で独自に進化・発展した日本食品です。中国でもラーメンは日本食という認識で、「日式拉麺」と表現されることが普通です。熊本発祥で日本より海外に支店が多い「味千ラーメン」は中国でも人気ですが「味千拉麺」と表記されていました。
中国好きで7回行っているトラタロウですが、日式拉麵を除きラーメンに似た中国麺料理は食べたことがありません。

伝統的かつ本来の意味の「拉麺」は食べ物ではなく、麺を作る方法のひとつです。麺は生地を層にたたんで切る切麺(うどん・ソバなど)、生地を穴から押し出す押出麺(冷麺など)があります。
拉麺の「拉」は「手で引き延ばす」を意味する言葉であり手延べ麺という作り方を意味。小麦粉に含まれるたんぱく質であるグルテンは粘りが強くいため、小麦粉で作った生地はよく延びる性質があります。生地を両手で延ばすと1本になり、それをたたんで延ばすと2本、さらにたたんで延ばすと4本と倍々に増やすことで麺を作るのです。

ブキビンタン・パビリオン地下にある一椀・蘭州牛肉麵店ではガラス越しに拉麵職人の技を見ることが可能。一塊の生地が熟練の職人の手にかかると十数秒で麺になるのは手品を見ているようです。
ちなみに中国文化圏・韓国などには龍鬚糖(龍のヒゲ飴)という伝統菓子があります。これは水飴を粉の中で拉麺と同じ技法で糸状にした物で具を包む菓子。これの作り方も一見の価値あり。




どの店も職人の「拉麺」の技を特色として前面に出していますね。拉麺の場面が見れるかどうかは店によりますが。そういうわけで蘭州ラーメンの拉麺と日本のラーメンは全然関係ありません。


この蘭州ラーメンですがマレー語では ミータレ(Mee Tarik)と呼ばれています。Mee は麺ですが、Tarik は「引く・引っ張る」を意味。拉麺をそのままマレー語化した「引っ張って作る麺」ということですね。
ちなみに店のドアにも Tarik と表示がありますが「引いて開ける」ドアの場合です。マレーシアの国民的飲料テタレ(Teh Tarik) は紅茶に空気を含ませ口当たりを良くします。そのために紅茶を上からこぼして下の容器に受ける動作にも「ひっぱる」という表現が使われます。Tarik の応用範囲が広いな(笑)。
※ マレー語では語尾のKはほぼ発音しません。また修飾される単語が前にきます。


反対側にはTORAK(押す)とあります

人気の秘密② ハラール食品であること
中国は豚肉食の本家本元ですが、蘭州とその周辺にある寧夏回族自治区、シンチャン・ウイグル自治区は中国でもムスリム(イスラム教徒)の比率が高く、豚肉を使わないハラール食品が多いのです。
蘭州ラーメンもスープは牛骨から取り、主な具材も牛肉なのが蘭州牛肉麵と呼ばれるゆえんです。


中国語ではイスラム教やハラール(イスラム教徒飲食可)を清真(チンジェン)と表現します。モスクは清真寺ですしハラール料理店(イスラム教徒が神聖視する緑色の店が多い)にも清真の文字があります。
KLの蘭州牛肉麺店も Muslim の文字や「月と星」のマークを入れてハラールを強調。


マレーシア全体での民族比率はマレー系・先住民族系70%、華人系23%、インド系7%ほど。都市部になると経済を握る華人系・インド系の比率が高くなり、KLだと5割・4割・1割ぐらいです。
日本から進出している一風堂などの豚骨ラーメン店は4割いる華人をターゲットにしていますが、ハラール食品ならマレー系・先住民族系・華人系のどれも取り込めるので客層が広がります。
先だってマレーシアに初オープンしたサイゼリヤもワインは提供せず、ハラール・メニューに変えてムスリムを取り込もうとしていました。
※ マレーシア初オープンのサイゼリヤに行ってみた に移動します。

※ KL市内で1割を占めるインド系ですがヒンドゥー教徒の半分以上はヴェジタリアン、ノンヴェジタリアンでも牛肉は絶対食べない、ヒンドゥー教徒以外の者が作る料理を嫌う、など宗教的タブーが多すぎて蘭州牛肉麵の顧客にはなりにくいです。インド系が来ていたら間違いなくキリスト教徒ですね。
蘭州牛肉麵の実食です
蘭州牛肉麵のチェーン店で一番多そうな ZHANG LALA MEE TARIK に行ってみました。漢字では中国兰州拉面と書かれています。 「兰」は蘭の簡体字(中国本土で使われる省略漢字)で「面」も麺の簡体字です。便利と言えば便利ですのでマレーシアの華人社会でも使われることがあります。


鍋貼という中国焼き餃子もありました
拉麺の他に刀削麺もあります。これは生地の塊を刃物で削って作る日本には無い製麺技術です。
※ 世界のB級グルメ/10 刀削麺(ダオシャオミエン) in 中国 に移動します。


まずは定番の牛肉麺です。結論から言うと中国のそれとほぼ同じ味でした。蘭州では付き物の大根煮はありませんが味を左右するほどの要素では無いので問題なし。 香菜(タイで言うことのパクチー、マレーシアでも売られているがそんなには使われていない)もありませんでしたが、ネギがあれば十分。
スープはあっさりした味ですが、パンチを効かせたければラー油を入れるのがお約束。驚きは牛肉がワンサカ入っていて中国物以上に豪華感はありました。ただパストラミみたいなあっさり味ですので、濃厚なタイプが好きなら紅焼牛肉(醤油・香辛料などで煮込んだ物)の物がよいかも。

そして肝心の麺も中国と同じ。店によっては麺の細さを指定できるようですが、ここは無いようで中細麺が使われています。
乾麺とは違う「もちもち」の食感ですが、日本で言う「コシのある麺」とはちょっと違う感じ。噛めば少し押し返してくるようなコシのある麺を好むのは日本だけなのか、中国や東南アジアで食べたいかなる麺にもこれはありませんでした。マレーシアも「コシのある麺」とは無縁の国なのでこの程度の「もちもち」でも新鮮な感じですね。

蒸し鶏とキュウリをあしらった涼面(和え麺)もなかなか美味しい。個人的には甜麵醬ベースのタレを使ったジャージャン麵仕立てで食べたい麺です。でもこれは北京名物であり、福建・広東からの移住華人が多いマレーシア華人には合わないのかな。甜麵醬も探していますがKLではまだ発見していません。
※ 世界のB級グルメ/31 ジャージャー麵(炸醤麺) in 中国 に移動します。
華人の多いマレーシアには中華麺料理は数多くあります。でも豚肉を使ったり、豚肉可のフードコート内に店があったりするとイスラム教徒のマレー系は入れません。ラクサやミーレブルなどマレー系の麵料理もありますが、華人系のそれとは味がまったく違います。中華麺料理でありながらハラールである蘭州牛肉麵はマレー系にとっては新たな味の開拓なのでしょう。

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